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はじめに 〜妊活に鍼灸は効くのか〜

まず最初にお伝えしたいのは、鍼灸には様々なやり方があるということです。鍼灸学校で習うのは、古典の資料からの東洋哲学や理論、経絡経穴の場所と鍼灸の施し方と共に、西洋医学の解剖生理病理などの基礎知識、です。実際に効く鍼の探究は卒業と共に、もしくは在学中の学外での学びから始まります。誰と出会いどんな経験を積むか、それによって十人十色、様々なアプローチをする鍼灸師が育ちます。

 

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治療法について」の中で鍼灸の大まかな種類について私なりにお伝えしています。妊活鍼灸でも私なりに分類するとしたら、

①古典に書かれている婦人科系に効くと思われるツボを使う。三陰交や太谿などなど。

②西洋医学の解剖学、生殖器に分布していく神経ルートと意識したツボを使う。腎兪や八髎穴などなど。

③西洋医学の解剖学、生殖器に分布していく神経ルートを刺激していくような筋肉への刺激をする。ツボは意識しない。

④心のリラックスを促すような、ツボへの刺激やマッサージなどを行う。

などでしょうか。と言っても、それぞれ①から④を組み合わせてみたり、経験でより深められたりして治療に個性が出てきます。

 

そしてもう一つの見方として、ベースとしての身体を整えることを重要視しているか、も鍼灸師によってその割合が違うと思います。

 

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私はと言うと、妊活鍼灸に取り組み始めた当時、①から④を試したり文献を読み漁ったりしましたが、最終的には⑤とも言えるかもしれないところでやっています。言葉にするなら、

⑤磨いた感覚を元に、周期や不妊治療の時期によっての生殖器活性を目的に、その都度その都度オリジナルのツボを見つけて、必要な刺激の質・量・方向・時間など調整する。

でしょうか。

身体を整えることに関しては、まずはそれありきで考えています。不定愁訴のない元気な身体が前提としてあり、生殖器も余裕を持って動けると感じるからです。お身体を診せていただけたタイミングにもよりますが、基本的にまずは元気な身体をと治療と養生指導に力を入れています。

 

私が当時からの模索の過程で感じたことを少しお伝えします。

 

・決まったツボを使うことに関して

鍼灸学校を卒業後に日韓中でツボの位置を合わせるということで大きくツボの位置が変わったことで、決まった位置に縛られることから離れることを選びました。感覚でツボを探すことをしていると、古典ベースで習ったツボもあながち良いかもと思えることもあるのですが、三陰交が左右片方の足にしか反応が出てなかったり、よく言われているツボが合わない方もおられたからです。知識に引っ張られずに感覚から入り、それを後で知識で分析していくという方向で考えています。

 

・妊活系の論文をベースにした選穴に関して

ひと昔前までの論文では、鍼灸をして妊娠率や体外受精の成功率が上がると言われていました。が、その論文の刺激内容まで調べると、日本の妊活鍼灸業界では考えられない、とても強い刺激(鍼の太さや深さ)で研究している上に、刺激したと見せかけて実際は刺激していないプラセボ群が、刺激した群や刺激しなかった群よりも結果が良かったという論文まで出てきました。つまり、何かしたという安心感が効いただけのか、鍼をするよりツボに触れるくらいの軽微な刺激の方が良いのか、ということだと思います。軽微な刺激での効果を研究していく場合、ランダム化比較試験が非常に難しくなるなと思ったのを思い出します。西洋の薬とは違い、決まったツボで著効を確認するのが難しいのが鍼灸なのだろうと思ったものです。

一方現在の論文ですが、西洋医学の病院や大学と連携して研究し論文を書かれている鍼灸師の先生方がおられます。日本生殖鍼灸標準化機関という一般社団法人もできています。研究内容を元にした方法も確立されているとのことですが、その内容は会員の先生方のみでシェアされています。学会では「東洋医術から東洋医学へ」とおっしゃられていました。客観的な視点という意味では、しっかりした研究施設で研究し、統一化された方法を編み出すことも大事かもしれません。私も妊活鍼灸に踏み出した当初は決まった手法を探していたことを思い出します。が、今は決まった方法だと身体の個別性によって効き方が様々だろうなと思ったりします。不定愁訴がない元気な身体だとこの決まった方法も合うのかもしれません。

 

私は結局、論文漁り(東洋医学の模索)と感覚研鑽(東洋医術の模索)の末、「東洋医術」による感覚重視・個別性重視の妊活鍼灸を選びました。一番の理由は、やはり磨いた感覚による選穴での施術効果が顕著なことです。

しっかりとお一人お一人個別の個体に対して、必要な刺激をしていくことで、ほぼその場で著効を示すことを何度感動したでしょうか。これが鍼灸なんだ、と一生向き合っていく覚悟ができました。生理痛など特に9割方その場で痛みは収まります。日常の身体から整えるために、ツボ刺激の時の独特な感覚も覚えてもらい、自分で押しても痛みが軽減できることも感じて貰っています。ツボの選定と押し方がとても大事だと実感しています。

一方で、決まったツボの効果はほどほどかなと感じます。決まったツボありきで刺激をすると、身体に沿わない刺激になる場合があるので、まずはその方に必要なオリジナルのツボを刺激し、ある程度不定愁訴が収まったあと、決まったツボを使うなら使っています。生殖器のツボもこの辺りに出やすいなというのはあります。膝上あたりです。片方だけに反応が出ることも多いです。

 

長くなりましたが、妊活鍼灸には様々な形があること、私が今のやり方に行き着いた過程、をお伝えしました。

 

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最終的に言えるのは、

・妊活の際に鍼灸は多かれ少なかれ効くということ。

・効く鍼灸をしているところを見つけてほしいということ。

・不定愁訴がある場合は、それをまずはしっかり治してくれる、効果を実感させてくれる鍼灸を見つけること。生理痛などの症状は分かりやすいです。

・不定愁訴がない場合は、より生殖器刺激に特化した積極的な鍼灸を求めていくのも有りだということ。

・リラックスは妊活には大事なので、身体を触れて貰いながらもゆっくり安心できること。

という感じでしょうか。

 

鍼灸師はそれぞれに考えはあると思いますので、参考までにと思います。